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2月20日 本格始動 実はティレルのラボラトリーに行くのはこれが最初ではない。この日まで2,3度は訪問している。ただその時はただの見学と手続きだけだったから、特に書くことといっても何もない。本格的なクリーニングは今日からである。 朝は佐藤たまき博士(カルガリー大学院でPh.D.を取得。長頸竜をフィールドとし、ポリコティルス類の系統解析を行う)が車でひろって博物館まで乗せていってくれる。途中からオーストラリアのテクニシャン、ナタリーさんとドライバーを交代。彼女は運転の練習をするそうだけど、佐藤さんいわく「大丈夫だよ、私よりうまいから」(笑)。さて実際は……… さあ、どうなんでしょう(笑)。 ラボの人たちは(あまり話さなかったにせよ)親切で、それからこれは意外だったんだけど、僕にはプレパレーションの経験もないのにあまりあれこれとうるさいことはいわない。基本的な方針を支持してあとはほったらかしである。もちろん自分の仕事がそれぞれあるからでもあるんだろうけど、こうなるとあとは自分でいろいろ考えてやっていくしかない。 1.エドモントサウルスの恥骨 ジャケットは上が取り除かれた状態で、骨の表面は露出している。保存状態は良好だ。凸字型をしていて、枝の一方は太く、一方は細い。今年の夏に発掘されたばかりで、標本番号はまだついていない。ダレン・タンキ(ティレルのベテラン技術者)はこれをエドモントサウルスのものと考えている。露出している方が外側面らしい。植物の根が張っていて、そのせいで何カ所かで完全に割れ目がはいっている。 まずは割れ目に沿って薄めたアクリロイドを注射して補強する。アクリロイドというのは接着剤の一種で、どんなものかは僕にはよくわからない。これが固まると次はもっと濃いアクリロイドを使って完全に割れ目をくっつける。ただ骨と骨の隙間があいていてつまっている母岩が少ないとこれはなかなかくっつかない。いつまでたってもぐらぐらしたままである。次は水につけた歯ブラシで表面を軽くこすり、ペーパータオルでふき取って砂や汚れをできるだけ落とす。表面にこびりついた母岩はカッターナイフとマイナスドライバーの先のようなものを使って湿らせながら少しずつ削っていく。母岩の種類は同じでも堅さは場所によってまったく違う。湿らせれば少し引っかいただけでけずれてしまうものもあれば、何度湿らせてもなかなかけずれないものもある。あとになってだんだんわかってきたのだけれど、この表面にこびりついた母岩の堅さには法則性みたいなものがある。骨片が核になってその周りに母岩がついている場合、これはだいたい固い。これを「コンクリーション」といわれるそうだ。こういった固い母岩を削っていると骨片が外れかけたりひびが入り始めたりするので、アクリロイドを何度も注射しながら根気強くやっていく。外れた骨片は元にもどし、強めのアクリロイドを使ってくっつける。あせってけずろうとしないで、時間をかけて何度も水で湿らせると少しは母岩も素直になる。ただこれをずっとやっているときりがないので、レーナの指示にしたがって母岩落としはきりのいいところで切り上げる。ここまで来るのに昼食をはさんで朝の九時半から午後の一時近くまでかかった。最後に歯ブラシと水で表面を洗ってかわかし、薄いアクリロイドを表面にまんべんなくぬってコーティングをする。 これが終わるといよいよ下半分の石膏ジャケットを完全に取り除く作業に入る。大きいラボに標本を移動して、回転式の円盤鋸で石膏ジャケットの縁を切り裂く。さらに上からペーパータオルを何枚も重ねて湿らせる。その上から石膏につけたファイバーグラスを塗り、約2時間放置して固める。時間がないので今日のこの恥骨のプレパレーションはこれでいちおう終了。つづきはまた明日だ。 2.アルバートサウルスの歯 残り時間を遊んでるわけにもいかないので、今度はアルバートサウルスの歯を相手に練習をすることになる。これはヴィエンの個人コレクションだ。まだ母岩の中に埋まっているが、長さは約6.5p、セレーションもはっきり確認できる。このセレーションを傷つけないようにクリーニングするのは大変そうだ。先端部分と真ん中辺りが割れているが、接着剤で補強されてある。接着剤の量が少し多すぎるような気がする。表面に出ているのは歯の先半分の側面(舌頬側の判断はまだつかない)と先半分の吻側面である。今度もアクリロイドで補強をくりかえしながら水でしめらせて根気強く周りから母岩をけずっていく。無理をして刃先を歯と母岩の間にもぐりこませるとひびがはいった。けっきょく今日は母岩から取り出すことはできなかった。 |